アニメが100倍楽しくなるブログ!

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桜Trick

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【概要】
時期:2014年冬アニメ(2014年1月~3月)

原作:まんがタイムきららミラク桜Trick

作者:タチ

制作:スタジオディーン

 

【あらすじ】

主人公の高山春香と園田優は中学からの親友で、中学卒業後2人とも美里西高校に入学した。しかし、優が初めて会った他の生徒たちと仲良くしている様子を見て、優が大好きな春香は嫉妬してしまう。春香は自分だけが優にとって他の子たちとは違う特別な友達でいたかったからである。そんな春香に優は「じゃあさ、私たちは他の子たちとは絶対しないことをしようよ」と提案する。それに対して春香が答えたのは「キス」だった。 「キス」を通じて深まっていく二人の関係を軸に描かれる、楽しくも切ない、少女同士の口付けの青春の物語。

 

【おすすめポイント 】

百合をテーマにしたアニメの中で最も知名度の高い作品の一つです。毎回キスシーンが盛り込まれることで有名なので、名前だけ知っているという人も多いと思います。 キス要素が一般的に強調されがちなアニメですが、女の子どうしの恋愛を丁寧に描いたラブコメとしてかなり完成度が高い作品です。百合作品ですが、百合作品にありがちな閉鎖的な女子校という雰囲気ではなく、他のきらら原作のアニメと同様、日常的な学校生活を軸にストーリーが展開します。また、演出もすばらしく、コミカルな日常パートと恋心の微妙な表現を引き立てています。

 

【感想】

ブコメ要素のあるアニメでは、二人が少しずつ互いにひかれあっていく様子を1クールかけて描き、最終話でやっと互いの気持ちを認め合う、もしくは、最終話でも互いの気持ちに気づかないままというパターンが多いような気がします(原作を途中までしかアニメ化できないといった事情も絡んでいるんでしょうが)。しかし、桜Trickはそのような中途半端なラブストーリーではありません。第1話の段階で既に、春香と優が明確な好意を確認しており、それ以降、特別な友達としての二人の関係を1クールかけて丁寧に描いていきます。

桜Trickを観て圧倒されるのは、何といっても濃厚なキスを交わす春香と優の姿です。濃厚なキスといっても、官能的すぎていやらしいといった感じではなく、あくまでも他の子とは違う特別な友達であることの確認というプラトニックさを強調することに成功しています。ほんわかとした色調、柔らかいキャラデザ、そして丁寧なキスの描写がこれを可能にしています。さらに、きららっぽい日常系という雰囲気を残しつつも、ときどきセクシーさを感じさせるような演出もあり、リアルさを醸し出しています。

ちなみに、OPではヌード姿になってますが、本編ではヌードどころが、パンチラもありません。単なるファンサービスのような無駄な演出が少なかったことは個人的に好印象でした。

桜Trickの評価すべき点は、キスだけではありません。キス以外のパートでの演出も特徴的です。「物語シリーズ」を彷彿とさせるような演出も多く盛り込まれています。ところどころに視覚的なメリハリをもたせることで、コメディタッチな日常にリズムを与えており、観ている側を飽きさせません。演出の素晴らしさは、シリアスな恋愛模様を描いた場面でも言えます。例えば第1話の前半パート(1-A)では、クラスでのコミカルなやりとりから一変して、空き教室で一人ぼっちの春香に優がやってきて初めてのキスをします。本作で一番印象的なシーンです。そこでは演出や画面の見せ方にも工夫が凝らされていることが分かるはずです。

さらに私が指摘したいのは、必ずやって来る「終わり」を意識させるストーリーになっているという点です。普通の日常系アニメでは、登場人物たちの日常が(あたかも)永遠に続くことを観客に意識させます。本来的に「日常」がいつか終わってしまうことはあり得ないからです。しかし、桜Trickは違います。1話で廃校が決定しており後輩も入ってこないことが述べられ、2話でコトネが高校生活の短さについて言及されることで、彼女たちが送っている高校生活がいつかは終わってしまうことを見ている側に強く意識させます。このことは、ストーリーの後半は美月会長たち3年生の卒業に焦点が当てられている(バレンタイン関連のエピソードすらなかった)ことからも裏付けられます。短くてせつない高校生活という舞台装置の中で、桜Trickのストーリーは展開されているのです。

そのような舞台装置の中で展開される彼女たちの物語には主に二つの軸から成り立っています。

一つ目の軸は、短い高校生活を精一杯楽しもうとする彼女たちの姿です。春香たちの通う高校はすでに廃校が決定しており、春香たちの後には後輩も入ってこなければ、体育祭をする資金すらありません。しかし、そんな逆境の中でも、みんなで素敵な思い出をたくさん作ろうとします。終わりを意識させる舞台装置の中で、なおさら楽しい時間は引き立てられるような気がします。

二つ目の軸は、それぞれの恋愛模様です。春香と優、コトネとしずくのカップルはもちろん、楓とゆず、美月会長と理奈副会長など、それぞれがそれぞれの気持ちを抱えています。それは単なる「恋人」や「友達」という言葉で片づけられるようなものではなく、もっと微妙な関係です。そんな中、いつか終わってしまう高校生活という舞台装置は、作中の世界観では一般的には認められているとはいえない女の子同士の恋愛というあり方や、学生時代という一生のうちでも特別な時期にだけ存在できるはかない恋愛を暗示しているようでもあります。だからこそ、まるでそれに抗うかのように、互いの「好き」の気持ちを確かめあいながら、模索しながら、「他でもない特別なあなた」と一緒に楽しい時を過ごしていく、それが本作のメインテーマになっています。

これらの点から、百合を意識した(もしくは百合好きがCPを組もうと試みる)他の日常系アニメと全く異なり、桜Trickが特殊であることが分かります。

さて、桜Trickでは春香と優がほぼためらいもなくキスをする関係になっており、これに対して違和感を持つ人も少なくはないと思います(私も正直その一人です)。しかし、困惑しているのは視聴者だけではなく本人たちも同様で、美月会長の春香への告白を通じて、春香と優が互いに対して抱く「好き」とは何なのかを問い始めます。結局作中では答えは見出されませんでしたが、美月会長の登場により、単にキスをしあう関係から、キスの意味を問いかけるようになったのは、大きな進歩だったと思います。原作の漫画の連載は以降も続いているようなので、これからも彼女たちの関係に注目していきたいところです。

最後にOPとEDについても触れておきます。電子音とミックスされたボーカルで構成され、どこか幻想的な雰囲気を感じさせるOPと、春香と優が歌うEDは、聞いているだけでもう泣きそうになります。ぜひ何回も聞いて桜Trickの世界に浸ってください。

 

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